日本は25年で、「後進国」化する。



今、安倍内閣は「デフレの完全脱却」を目指したアベノミクスを展開しています。

「デフレの完全脱却」とはつまり、GDP成長率が低くなる低成長、あるいはゼロ成長、あるいはゼロ成長、マイナス成長にすらなってしまう「デフレ」を完全に終わらせ、GDP成長率を年率3~4%程度まで上げる、ということを意味します。

しかし今日本には、「成長率を数%上げることがそんなに必要なのか? 別に成長しなくたって、今まで通りで構わないじゃないか」という風に思っている方も少なくないと思います。

──が、そんな認識は完全に間違っています。

なぜなら、今の日本で「成長率を数%上げる」ことに失敗すれば、「今まで通りの暮らし」ができなくなるからです。

以下、その理由を説明したいと思います。

まずは、こちらのグラフをご覧ください。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=773555842745361&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

これはこれまでにも何度かご紹介してきた「世界の全ての国・地域の名目GDPの推移図」。

ご覧のように、1995年ごろまでは、日本は順調に成長していました。結果、1995年には日本のGDPはアメリカの7割、(ロシアも含む全)欧州の5割程度の規模を誇っていました。

しかしそこから日本は「デフレ」になり、「ゼロ」ないしは「マイナス」成長となりました。一方で、世界中の国々のGDPは伸びていきます。結果、日本のGDPは中国の半分、アメリカの四分の一、欧州の五分の一、という水準に至ってしまいます。

そして、全世界のGDPに占める日本のGDPシェアは、ピーク時の17.3%(2005年)から5.9%にまで、実に「三分の一以下」にまで激減しました。

つまり、日本経済はこの失われた20年の間に着実に衰退し、今や、決して「経済大国」とは言えないような国に成り下がったわけです。

・・・・

とはいえ、未だ日本はGDPの水準は世界三位だし、発展途上国に比べればまだ暮らし向きは良いし、このままでも構わないじゃないか──という気分が、わが国には漂っているやに思います。

しかしここで忘れてはならないのは、未だ世界は「成長し続けている」という現実。

だから、もしも日本の「デフレ」が放置され続ければ、日本と諸外国との「格差」はさらに拡大していくことは必定です。結果として、日本経済の相対的地位はさらに「勢いよく」凋落していきます。

こちらのグラフをご覧ください。これは、日本のGDPシェアの変遷の円グラフです。
https://www.facebook.com/photo.php?fbid=887335791367365&set=a.236228089811475.38834.100002728571669&type=3&theater

1995年から今日にかけて、日本のシェアは三分の一にまで低迷しているのは、先ほど紹介した通りですが、ここで重要なのは、今から25年後の2040年の、日本の予測シェア。

各国の「現状の成長」が続くとすればどうなるか──を予測するため、過去10年間のGDPの成長が各国において継続すると想定し、各国のGDPシェアを求めました。

結果、日本のGDPシェアは実にわずか2%台にまで、縮小してしまうこと示されました(ちなみに、この日本のシェアの推計値は成長率についての「単利」計算に基づくもの。「複利」計算の場合にはそのシェアは実に「1.7%」にまで縮退する結果となりました)。

もうこれでは、誰も日本を「経済大国」だなんて呼ばないでしょう。むしろ世界は日本を「後進国」だと見なしはじめ、日本人もそういう評判を粛々と受け入れていくことになるでしょう(例えば、GDPシェア2%前後といえば、今日では「メキシコ」が該当します)。

そもそもこれだけGDPが小さければ、「先進諸外国」との「物価の格差」も「賃金の格差」も拡大してしまいます。すなわちその頃の日本は、今では想像できないくらいに、「モノ」が安く、「所得」も低い国になっているわけです。

それはつまり「先進諸国」の人々が買えるようなものを、多くの日本人は買えなくなってしまうことを意味します。

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しかし資源や食料の自給率の低い日本では、相変わらず石油やガスなどの「資源」や「食料」だけは、外国から買い続けなければなりません。とはいえ先進諸外国にとっては「さして高くない」石油やガスや食料品は、所得や物価の低いその頃の日本にとっては「とても高い」もの。だから、そんな必需品の輸入によって庶民の暮らしはさらに圧迫されることになります。

そして悲しいことに、「日本企業の価格」それ自体も縮小しているので、「ホンハイによるシャープ買収」のようなことが繰り返され、日本企業が「買いたたかれて」いきます(そして、そんな「企業の爆買い」を通して日本企業固有の技術はあらかた盗まれていくでしょう)。

しかもその頃には日本人は「安い賃金で働く労働力」と先進諸外国から見なされ始めますから、それがまた「日本企業の爆買い」を加速すると同時に(もちろん高額所得者は解雇、あるいは賃下げされます)、そんな「安い労働力」を目指した先進諸外国の企業進出も始められることにもなります。

そういう経緯を通して外資系企業の下で働く日本人がどんどん増えていきます。それはもちろん日本に雇用が生まれることを意味しますが、それは何も良い話しではありません。

なぜなら、上記のような経緯で日本に進出したグローバル企業の賃金は、純然たる日本企業のそれよりも「安い」からです。彼らはグローバル競争を勝ち抜くために「労働分配率」(売り上げに占める賃金総額の割合)を極限にまで下げようとしているからです。

しかも、日本人が提供した労働力で得られた「企業収益」の多くは結局、海外在住の資本家達に流出します。つまり、日本企業が減って外資企業が増えることは、日本が「経済的な植民地」へと近づいていくことを意味しているわけです。

──以上、いかがでしょうか?

中には、そんな暗い状況に日本がなるはずがないじゃないか、とお感じの方も少なくないかもしれません。

しかし、一握りの先進国を除けば、世界中のほとんどの国が「発展途上国」であることを忘れてはなりません。日本はこれまで、素晴らしく優秀な先人達の稀有なる努力の賜物故に「たまたま」先進国であったに過ぎなかったのです。私たちが努力を怠れば、瞬く間に発展途上国に転落するのも当然と言えば当然なのです。

しかも、これまで日本を含む先進諸国が発展途上国に対して一体どうしてきたのかを振り返れば、以上の指摘が今度は「後進国・日本」めがけて繰り広げられるであろうことは、容易に想像できるはずです。

それがグローバル化した世界経済における「GDPの小さな経済小国」の宿命、です。

GDPシェア2%代(あるいは複利計算で推計するなら1%代!)の2045年の我が国は、GDPシェアが10%も20%もある経済超大国達に好き勝手にされてしまうわけです。

・・・・

以上に示した悪夢のような未来を避けることは出来るのでしょうか?

──もちろんそれは可能です。

言うまでも無く、デフレをいち早く完全に終わらせ、諸外国と同様の年率3~4%程度の成長率を確保し続ける状況を創出すれば良いのです。

そうすれば、わが国の発展途上国化を食い止めることはもちろん可能です。

これこそ、わが国政府はアベノミクスを通した「デフレ完全脱却」が目指している、最大の根拠です。

「日本の後進国化」という悪夢を避けることができるのか否か──この問題は、もう既に単なる「経済」問題の枠を超えた、

  「国防」問題

と言っても差し支え無いでしょう。

こうした真剣なる危機感の下、かねてより主張している「三年限定の財政拡大」によって「デフレからの脱出速度」を確保する取り組みの継続が求められています。さもければ、日本の未来は悪夢に堕することになるでしょう。

安倍内閣の勇気ある、真に本格的な経済対策の継続を、心から祈念したいと思います。

藤井聡@内閣官房参与(京都大学大学院教授)

引用: 『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/10/25
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