国際協定による主権制限



ブレグジット、イギリスのEUからの離脱の本質が何かといえば、「国際協定による主権制限」からの脱却です。

もちろん、最大のポイントは、イギリスが、
「EU加盟国(特に東欧)からの外国人労働者の受け入れを制限できない」
という問題ですが、それ以外にもイギリス国民はEUに加盟していることで、様々な主権制限を受けています。

例えば、イギリスがドイツ製品の流入に辟易し、対ドイツの関税をかけようとしても、絶対にできません。EU圏内において、モノ(製品)の国境を越えた移動を妨げてはいけないのです。

あるいは、イギリスはEUに加盟している限り、漁業政策や農業政策を独自に決定することはできません。

EUは資源保護の観点から、EU加盟国に「漁獲量」を割り当てているのですが、島国であるイギリスの領海は大きく、領海の漁業権の多くをEU加盟国に割り当てることになりました。

EUが定めた漁獲制限の影響で、イギリスの漁船は「イギリスの領海」における漁業を制限される事態に至っています。とはいえ、各国の漁獲量の割り当てはブリュッセルで決定され、イギリスの漁師たちにはどうにもなりません。

この手の「国際協定」により、各国国民の主権を制限する仕組みを何と呼ぶか。ずばり、帝国主義です。

「ドイツ第四帝国の支配と崩壊」(ヒカルランド)https://www.amazon.co.jp/dp/4864713170 で書きましたが、帝国主義とは、
「国際協定(条約)で被支配国の国民の主権を制限し、所得が支配国に一方的に流れる仕組みを固定化すること」
になります。

軍事的な支配は、帝国主義において二次的な意味しか持ちません。といいますか、一方的に所得を吸い上げられる被支配国の主権者や国民を黙らせるために、軍事力が行使されるのです。

「後発組にして半年で月100万円を達成」できるアフィリエイトノウハウはこれしかない。

イギリスはかつて、インドやビルマ、マレーシアなど多くの国々を「植民地」と化し、一方的に所得を吸い上げ続けました。例えば、マレーシアの森林は伐採され、商品作物であるゴムの木が植えられ、インド人労働者がゴムの生産に従事しました。いわゆる、プランテーションです。

マレーシアで生産されたゴムは、アメリカのデトロイトに送られ、自動車のタイヤに化けました。そして、自動車会社が利益を上げ、ロンドンのシティの投資家たちに配当金という形で所得が分配されたのです。

あるいは、イギリスはインドにおいて鉄道を建設しましたが、もちろんインド住民のためではなく、インド産綿花を早急に港に運び、イギリス産綿製品をインド全土の市場に運搬するためでした。インドの鉄道は、イギリスの綿産業のために建設されたのです。

しかも、酷いことにインドの鉄道の資本はイギリス人投資家たちが保有しており、インド鉄道が赤字になったとしても、「インド住民から徴収された税金」により、配当金が支払われました。当時のインド鉄道は、日本のFITによるメガソーラ顔負けの「必ず儲かる投資商品」だったのです。

もっとも、イギリス帝国主義全盛時であっても、別に「イギリス国民が全般に豊かになった」わけでも何でもありませんでした。イギリス本国でも、労働者たちは悲惨な環境に置かれ、所得を増やすことはできませんでした。

イギリスが綿製品の生産性を一気に高めた産業革命では、機械化に反対する手織り工などが機械打ちこわし運動を展開されました。通称「ラッダイト運動」です。

産業革命と機械化による失業を恐れたイギリスの労働者たちは、工場や機械設備を破壊して回ります。それに対し、イギリス政府は1812年に機械破壊を何と「死罪」とする法律を成立させたのです。1813年、ラッダイト運動の指導者たちに、実際に死刑が宣告され、15名の労働者が処刑されました。

結局、帝国主義あるいはグローバリズムの本質は、「一国の繁栄」ですらなく、「国内の一部の勢力」の利益を最大化することであることが分かります。

もちろん、イギリスにおいてEUという国際協定から利益を得ていた人々もいたわけです。結果的に、離脱派と残留派が拮抗する状況になりました。

今回、イギリスは「EUというグローバリズムあるいは帝国主義」により、国民が分断されてしまったのです(元々、イギリスは階級社会ですが)。

すでに、スコットランドが独立を主張し始めていますが、イギリスは今後「国民国家」を取り戻すことができるのでしょうか。

分かりません。

いずれにせよ、世界の歴史は「グローバリズム」と「国民主義(ナショナリズム)」が綱引きをする形で動いていくという真実が、ブレグジットからも読み取れるのです。

引用: 『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2016/7/4

コメント


認証コード5002

コメントは管理者の承認後に表示されます。