今こそ、全国新幹線ネットワーク「第二期・整備計画」を
(1)新幹線の大きな力
「東京大阪を二時間半で結ぶ新幹線」が、日本の高度成長以降、今日の日本経済をささえ続けてきたことは疑いの余地がありません。
太平洋ベルトが栄えたのも、新潟、仙台、福岡が大都市に成長した背景にも、「新幹線整備」が重大な役割を担ったことは否定しがたい事実です。
そして昨今では、熊本が最新の政令市になったのも、金沢が空前の観光のにぎわいを見せているのも、新幹線の開業が重大な役割を果たしています。
一方で、大分、宮崎の東九州や山陰、四国、そして、羽越地方、さらには札幌を除く北海道の大部分の地域――これらの地域では、いわゆる「過疎」が進行し、目を覆うばかりに疲弊してしまった地が広がっています。こうした地域の衰弱の背景には、新幹線の「未」整備が決定的な影響を及ぼしています。
そもそも、都市部に新幹線を集中投資し、地方部に何もしなければ、「地方から都市への人口や企業の流出」は避けられなくなります。このことはつまり、都市部への新幹線投資は、地方部に対して、「経済被害」を与えていることを意味しています。
(※ 例えば、山陽高速道路は、山陰地方に1.9兆円の被害をもたらしていると推計されています。[下記のスライド13]
http://pcndr-shimane-u.com/wp/wp-content/uploads/2014/11/4_%E8%97%A4%E4%BA%95%E8%81%A1%E6%B0%8F.pdf)
(こうした議論の詳細は、下記の『新幹線とナショナリズム』等をご参照ください)
新幹線とナショナリズム
(2)「次」を考える時代に入ってきた新幹線の整備計画
一方で、わが国の新幹線整備は長らく停滞し、民主党政権でその動きはほぼストップしていたのですが、民主党政権末期ごろから徐々に動きはじめ、今日では、北海道、北陸、九州のそれぞれで、整備が進められる状況となっています。
そもそも今日の新幹線の整備は、40年以上も前の1973年につくられた「整備計画」にそって進められてきました。
これまではなかなかその「終わり」が見えてこなかったのですが、ここにきてようやく、その「終わり」が見えてきました。
北陸新幹線の「敦賀」接続は6年後、
長崎新幹線も6年後、
北海道新幹線の「札幌」接続は15年後にそれぞれ、完了する見通しとなっています。
ですから我々も遂に、73年の「整備計画」の「次」の議論を始めるタイミングにさしかかり始める状況となったわけです。
(3)新幹線整備のプロセス
今日の状況を確認する意味でも、ここで少し、新幹線整備が行政的にどのように進められているのかを解説いたしましょう。
まず、新幹線は、1970年に作られた「基本法」(全国新幹線鉄道整備法)に基づいて、作られます。
この基本法によれば、まず全国的な視点から「基本計画」がつくられます。わが国ではこの基本計画は、1971年~1973年にかけて作られました。そのネットワークはこちらになっています。
http://trafficnews.jp/post/36474/20141113_shinkansen1/
この地図を是非、よくご覧になってみてください。
ご覧の様に、北海道には旭川にまでつなげられることが決定されており、東北でも青森、秋田に接続することが決定されています。西日本では、鳥取、島根と四国四県、そして東九州の街々にも、新幹線がつくられることが決定されています。
一方、こうして基本計画を策定した上で、その基本計画ネットワークの中で、早期実現が必要な区間をさらに選び出し、「整備計画」が策定されます。
今、この整備計画まで来ているのが、北陸、九州、北海道の3つの路線です(中央リニア新幹線も整備計画まで来ていますが、異なるプロセスで進められているので、その件についてはまた別途論ずることとしたいと思います)。
そして、その「整備計画」とされた路線の区間の中から、毎年毎年の予算の範囲で、具体的に整備が進められていくわけです(そういう段階に移行することを一般に「事業化」と言います)。
つまり、新幹線ができあがるまでには、
「ステップ1:基本計画」
⇒「ステップ2:整備計画」
⇒「ステップ3:事業化」
という3つのステップを踏まなければならないわけです。
先に紹介した「敦賀までの北陸新幹線」「長崎新幹線」「札幌までの北海道新幹線」はいずれも、「事業化」されていますので、ステップ3に到達しているわけです。
一方で、ステップ2(整備計画になっているが、未だ、事業化されていない区間)としては、「北陸新幹線の敦賀から大阪までの区間」が残されています。
(4)今後20年間の新幹線の推進ビジョン
さて、以上のお話はつまり、
「新幹線整備は凄まじい地域発展効果があるにも関わらず、地方部においてはほとんど作られていない、それが東京一極集中をはじめとした都市の過密と地方の疲弊をもたらしている、だからこそ、迅速な整備が求められている」
という事を意味しています。そしてそのためには、
「現在の整備計画を一日も早く終わらせると同時に、まだ基本計画のステップに止まっている路線の中から『整備計画』に『格上げ』する路線を、現実的な範囲で少しでも多く選び出し、可能な限り迅速に『事業化』していくことが求められている」
という次第です。
こうした背景を受けて、筆者は一学者として、次のような提案を致したいと思います。
『10年以内に「現整備計画」を完了させると共に
「第二期・整備計画」の策定と20年以内の整備を目指すべきである』
そもそも、現在の整備計画は、先にも指摘したように、40年以上前に作られたものですから、その終わりがようやく見えてきた今、そろそろ、第二期・整備計画を策定する時期であると考えるのは、至って自然です。
ただし、第二期・整備計画をいち早く策定し、整備していくためにも、現計画を速やかに完了させることも重要です。
一方で、第二期・整備計画としてどういう区間を整備するかは、これから様々な議論を積み重ねていく必要がありますが、現時点での様々な地域の議論を概観しますと、例えば、次の様な議論が考慮の対象となりえるかもしれません。
・四国新幹線(四国区間)
http://www.shimbun.denki.or.jp/news/local/20160113_01.html
・四国新幹線(大阪区間)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF19H0P_Z11C15A1EE8000/
・東九州新幹線
https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2015/11/04/220658641
・奥羽新幹線(山形区間)
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201501/20150114_52042.html
この他にも全国に様々な新幹線整備の議論が重ねられてきていますから(山陰新幹線や新宿新線、等)、こうした全国の議論を全国土スケールで俯瞰しつつとりまとめ、第二期整備計画を策定する議論をさらに深めていくことは、極めて重要であると考えます。
もちろん、こうした新幹線整備の迅速化、推進のためには、予算が必要となりますが、筆者の概略的な試算によれば、現在の政府の公共事業関係費の数パーセント程度の「追加」予算がその事業期間に確保されるなら、以上に述べた議論は全てカバー可能なのであり、決して非現実的などではありません。
折しも、地方創生のための地方分散化策、国土強靭化のための一極集中対策、そして、内需拡大を通したアベノミクス成功、デフレ脱却、経済成長が求められている今日、こうした新幹線インフラの整備は、極めて有望な国家プロジェクトの一つであることは間違いありません。
中央リニア新幹線の議論も含めながら、こうした新幹線整備の議論がさらに、国会、政府、マスメディア等を含めた国民的議論の形で展開していきますことを、心から祈念したいと思います。
引用:http://www.mitsuhashitakaaki.net/2016/01/19/fujii-179/